著者
Bernard Werber Private or Broken Links
The page you're looking for is either not available or private!
カテゴリ
Fiction
発行日
1998
読書開始日
2025-07-11
3選
- エロティシズムの極みは、エクスタシーの瞬間の相手の眼差しを見て楽しむことだ。それ以上に美しいものはない。そもそも、この眼差しから美という観念が生まれた。美しいものとは、快感に浸っている瞬間の相手の眼差しに似たものだ。さらには、直立姿勢によって、乳房が性欲を刺激する場所となった。以前は、つまり四足歩行のときは、誰も乳房に注意を払わず、乳房はもっぱら子供に乳をやるためのものだった。だが立ちあがり、前を見せるようになって、乳房は女らしさ、魅力、エロティシズムを表わす要素となった。乳首が立っているかどうかが、女の欲望に関するひとつの情報を与えてくれるようになったのだ。同時に、女性性器は、直立の状態では輪郭や色の変化がわからなくなり、異性を惹きつけるという意味において重要性を失った。 「エロティシズムの要因としての乳房の発見に、おれたちの祖先はひどく動揺したにちがいない。それで服を考え出したんだ」 相手の欲望を目の当たりにすることで、潡しい動揺が引き起こされた。おれたちの遠い祖先は突然、性行為に熱中するようになった。それもたんなる生殖目的でなしに。思うに、直立姿勢を取った最初の霊長類はすごい勢いでセックスしたにちがいない。形も、相手も問わずに。彼らは性に取りつかれ、乱交パーティが好きで、近親相姦だったにちがいない。 「近親相姦?」リュクレスは驚いて顔をしかめた。「でも、そんなことしたら、障害が出るわ」「そうとも。人類の祖先は、近親相姦によってもたらされた一種の先天的な障害をもったものだ」「ヒトは、倒錯的な性行為の結果生まれた障害をもつサルだと言いたいのね」リュクレスは急いでメモを取った。 「そのとおりだ。多くの古い神話のなかに、父親から生まれた、もしくは処女の母親から生まれた半神の子供が登場するのはそのためだ。おれに言わせれば、アダムとイヴがリンゴを食べる話は、禁じられた性行為のメタファーだ。その後、起源の秘密を隠すためにタブーが考え出されたんだ」 「だから、おれは優生学には断固として反対なんだ。落ちこぼれ、重度障害者、おれたちが間抜けとか病気とか思っている連中は、たぶん人間の突然変異体なんだ。だが、彼らこそ新しい人類の代表だ。医学の発達にともない、今じゃどこの親も、かわいくて健康で頭のいい子供を欲しがる。これといって面白みのない子を。トウモロコシや牛やニワトリでしたのと同じことを人間でしようとしている。最高の人材を選びだし、クローン化しようとしている。けれど、そういう人間は完全に同じだから、いったん病気が発生すると、一度に全滅してしまう。それに対して、不完全な人間のなかには、独自の防御システムを開発する者も出てくるかもしれない」
- 「私たちはみんな人間よ。みんな同じだわ」村長は口の前に人差し指を置いた。「いや、私はむしろ違うと思う。人が平等だなんて、それほどたちの悪い嘘はない。我々のなにが違うかというと、それは文化だ。若者にユーモアを教えるところもあれば、敵を憎むよう教えるところもある。寛容を教えるところもあれば、異邦人を改宗させるよう教えるところもある。暴力を嫌悪するよう教えるところもあれば、どんな手段を使ってでも自分の物の見方を他人に押しつけるよう教えるところもある」
- 権力は東から西へと移る。世界の中心は、はじめはインドにあった。ぼくの考えでは、すべてはインドから始まった。今から五千年以上前に。それから太陽の軌道に沿ってしだいに西へ移り、代わってメソポタミア人とエジプト人が権力の座に就いた。続いてギリシャ人、ローマ人。さらに西へ移った。オーストリア-ハンガリー帝国、フランス、スペイン、オランダ、ついでイギリス。さらに西へ。大西洋を横断して権力はニューヨークへ到達した。さらに西へ。アメリカ大陸を横断して権力はロサンゼルスへ。そして今は東京にあり、まもなく中国へ移る。中国のあとは再びインドに戻る。地理的に見た権力の歴史とその推定ルートは、ざっとこんな感じだ
メモ
久しぶりのSF.韓国ではどの図書館にも入っているという(?)Bernard Werber の「私たちの父の父」
中古本でようやく手に入れたので読んでみた.
このストーリーのテーマは人類進化の謎を明らかにすること.しかし人類進化の謎とは何であろうか.
ここで猿から人類に至る進化を出現時期順に軽く復習する.
分類 | 学術名 | 出現時期(約) | 特徴 |
---|---|---|---|
真霊長類 | Euprimates | 5500万年前 | 最初の「霊長類らしい」哺乳類 |
直鼻猿類 | Haplorhini | 4000万年前 | サル・ヒトのグループ |
狭鼻猿類 | Catarrhini | 2500万年前 | ヒトや旧世界ザル(アフリカ・アジア) |
!../../assets/img/Public/Le père de nos pères - Bernard Werber-20250725191427266.jpg Private or Broken Links
The page you're looking for is either not available or private!
この後,類人猿が生まれる.下記で明らかなように,類人猿は地球の広範な地域に分布していた.地球はかつて「猿の惑星」だったのだ.
種類 | 学名(属レベル) | 出現時期(約) | 備考 |
---|---|---|---|
テナガザル | Hylobates(ヒロバテス属) | 約 1800万年前(中新世) | 最初に分岐したヒト上科の一員 |
オランウータン | Pongo(ポンゴ属) | 約 1200〜1400万年前 | 東南アジアに分布 |
ゴリラ | Gorilla(ゴリラ属) | 約 800〜1000万年前 | アフリカに分布 |
チンパンジー | Pan(パン属) | 約 600〜700万年前 | ヒトと最も近縁の現存種 |
!../../assets/img/Public/Le père de nos pères - Bernard Werber-20250725191427499.jpg Private or Broken Links
The page you're looking for is either not available or private!
そしてこの後,1974年発見されたルーシーで有名なアウストラロピテクスが見つかる.ルーシーの推定時期は320万年前される.アウストラロピテクスは,類人猿のような体と人間のような直立歩行の両方の特徴を持つ.
その後,最初に道具を使ったとされる人類ホモ・ハビリスが出現する.そして,火を利用したホモ・エレクトス,最後に現生人類のホモ・サピエンスと続く.
種類 | 学名 | 出現時期(約) | 備考 |
---|---|---|---|
アウストラロピテクス | Australopithecus | 約 400万〜200万年前 | 最初の完全な二足歩行。ルーシーが有名。 |
ホモ・ハビリス | Homo habilis | 約 240万〜180万年前 | 最初に道具を使った「器用な人」。脳容量拡大の始まり。 |
ホモ・エレクトス | Homo erectus | 約 190万〜40万年前 | 火の使用、長距離移動。アジア・欧州に拡散。 |
ホモ・サピエンス | Homo sapiens | 約 30万年前〜現在 | 現生人類。言語・文化・文明を発展させた唯一の種。 |
本書のストーリーは2つの時間軸が並行して進む.一つは370万年前のアフリカ,もう一つは現代のパリ.前者では人類進化の過程を,後者では考古学者の殺害事件の真相を解明しながら進む.
本書のネタバレをすると,ヒトはサルとブタの交配の結果 だという説を提唱する. この根拠として,ヒトとブタは
- 共に皮膚がピンク色,体毛が薄く,この点どの類人猿とも異なる
- 目はブルーか茶色.家族的な習性も同じで,母親が子供をしつける.
- 体長,臓器の大きさは似ている.類人猿は3mに及ぶものもある
- 雑食.ヒトとブタの肉は似た味がする.(医学的にも人間と豚は筋肉の構造や脂肪の分布が似ている)
- 縄張りにこだわる
- 神経衰弱に陥りやすく,高じると自殺する
ユダヤ教,イスラム教が豚の肉を食べるのを禁じたのもこのあたりにあるという.一種のカニバリズムに該当するためだ.
この説を唱える学者は実際にいて
人類の進化に関する通説を根底から覆すような仮説がある。遺伝学者ユージン・マッカーシー博士は、人類が実は異なる種の交配によって誕生した「ハイブリッド(混成)種」であると主張している。しかもその起源は、チンパンジーとブタの“掛け合わせ”にあるという。 (中略) 事実、鳥類では4000例以上の異種交配が確認されており、その多くは部分的に繁殖能力を持っているという。 哺乳類でも、同様の“部分的に繁殖可能なハイブリッド”は存在し、家畜の品種改良ではよく行われている手法である。たとえば、初代の交配種(F₁世代)を親のどちらかに再び交配(バッククロス)させることで、複数世代かけて安定した新種が作られていく。 博士は、ヒトがこのようなバッククロスを繰り返して誕生した可能性があるとし、「我々はチンパンジーに近い遺伝構造を持ちながら、ブタ由来の特徴を備えている」と語る。
人間はチンパンジーとブタのハイブリッド? 遺伝学者が提唱する衝撃の「人類起源説」ーオカルトニュースメディア トカナ
…とまあこのサルとブタの交配説以外にも,Bernard Werberの世界観は興味深く,作中の人物をして
人が平等だなんて、それほどたちの悪い嘘はない。我々のなにが違うかというと、それは文化だ。
と言わせたり,
権力は東から西へと移る
という説も披露する.
「3つの小石ゲーム」というBernard Werber考案(不明.ググった感じではヒットしなかった?)のミニゲームもシンプルだが奥が深い.
ルール: 二人のプレーヤーが小石を三つずつ持ち、背中に隠す。合図で、右手を前に差し出す。中には小石がひとつか二つか三つ入っている、もしくはひとつも入っていないこともある。プレーヤーは順番に、互いのこぶしのなかにある小石の合計、つまりゼロから六までの数字を考えて言う。それから手を開き、どちらの数字が正しいかを確かめる。両方とも違ったらやり直し。当たれば小石をひとつ捨てる。 三回数字を当てたほう、つまり先に小石がなくなったほうが勝ちだ。 後から発言する方は、同じ数字を言ってはならない。 前のゲームで勝った方が、先に数字を言う。
GPT-o3に必勝法を解かせた結果
(ここから)
要点だけ先に
-
必勝(=理論上 100 %)の方法は存在しない
─ 相手があなたの宣言と握り方を 完全にランダム化 すれば、どちらも常に 4 通り(相手が2個以下なら3通り・2通り…)のうち1つを当てるだけの確率ゲームになるため。
-
ただし 後攻(あとから数字を言う側) が常に 1 手あたりの的中確率で優位(初期局面で 1/3 vs 1/4)。
→ 長いゲームほど後攻が統計的に勝つ。
-
実戦では「後攻になったら確率差を伸ばし、先攻のときは確率差をできるだけ詰める」方針でほぼ必勝に近い勝率(≈ 65 %)を作れる。
後攻に回ったときの実践‐最適戦略
自分の残り石 | 握る石 (右手) | 宣言の組み立て | 具体例 |
---|---|---|---|
3 個 | 0 個 | 先攻が言った数字を聞いてから「6 か 5」のどちらか(先攻宣言と重ならない方)※6 は物理的に不可能なので自分も相手も当たらない。「石を減らさずターンを流す」目的。 | 先攻 3 ⇒ 自分は 6先攻 6 ⇒ 自分は 5 |
2 個 | 0 個 | 同じ理屈で「4 か 5」のどちらか(不可能数を優先) | 先攻 2 ⇒ 自分は 4 |
1 個 | 1 個 | 当てに行く局面。先攻宣言が 0/1 のどちらか一方なら もう片方 を言う(命中確率 100 %)。それ以外の数字なら、自分は 1 を宣言(命中確率 50 %)。 | 先攻 2 ⇒ 自分 1 |
-
意図
-
石が 3 → 2 個の間は 命中しない数字 をわざと選び「ゲームを伸ばす」。相手も当たらず自分も減らない。
-
相手が 2 個以下になったら自分はまだ 3 個。「相手の残りが少ないほど後攻の命中確率は上がる」ので、ここから本気で当てに行く。
-
1 対 3 → 1 対 2 → 0 対 2 という形で一気に逆転して勝ち切れる確率が高い。
-
先攻を引いたときの凌ぎ方
自分の残り石 | 握る石 | 宣言 | 目的 |
---|---|---|---|
3 or 2 | 1 個 | 2 | 後攻にとって命中確率が 1/3 と 最低 になるように範囲を狭める。自分は 1/4 だが後攻との差が最小。 |
1 | 0 個 | 0 | 自分が当たれば即勝ち。外れても後攻の命中は 1/2 とまだ抑えられる。 |
- ここで当たれば 即座に勝利。外れても後攻は 1 個しか当たり目が無い状態を維持できる。
なぜこれで勝率 ≈ 65 % になるのか(確率の肝)
- 後攻の 1 ターン期待命中確率
-
相手残り 3 個:1/3
-
2 個:1/2
-
1 個:1/1(条件付き)
-
- 先攻は常に 1/(相手残り+1) ➜ 少なくとも 1 手あたり 8 ~ 17 % 分の差 がつく。
-
ゲームを長引かせるほど「差 × 試行回数」が利き、最終的に後攻の方が 3 回命中する確率が高くなる。
まとめ (120 字)
- 後攻を取れ。
- 自分 3–2 個の間は 0 個握り+不可能数字宣言で「空振りを量産」。
- 相手が 2 個以下になったら一気に当てに行く(残 1 個なら 0/1 宣言で 50–100 %)。
- 先攻時は逆に 1 個握り+2 を固定宣言して確率差を最小化。
この作戦で、理論上 100 % ではないものの 6~7 割の勝率 をほぼ安定して確保できます。
(ここまで)
「え、ティータイムが?ああ、そうじゃなくて、ぼくたちが争わないことがだね。まあ…・・・・•しきたりは変わるってことさ。マサイの友人が言っていたけど、たんに教育の問題だよ。きみはろくな教育を受けていない、それだけのことさ。暴力に訴える連中というのは、たいてい、それ以外の意思の伝達方法を教わらなかった人間だ。それに引きかえ、ティーパーティは情報交換にはもってこいのようにぼくには思えるけれど・・・・・・。きみには濃すぎるかな」
むしろ絆を結び直す必要に駆られている者たちがとりわけ熱心にやっている。母と子。かつて争った相手と仲直りしたがっている上位のオス。交尾をしてもらえず、それでも愛情の印が欲しいメス。自分がまだ役に立つことを示したい年寄り。
毛繕いのおかげで、互いのそばにいられるのであり、喧嘩でなしに触れあうことができるのである。毛繕いには鎮静作用がある。弱者は、怖いと思う者の機嫌を取ることができる。強者は、自分を怖がっている者の気持ちを鎮めることができる。
痒み以上にはがゆい苛立ちを鎮めようとして、みなかくのである。母親たちは指で器用に子供の毛をすき、出っ張りを見つけると、尖った爪でやさしくかいた。
彼は思った。自分たちは幼稚かもしれないが、少なくとも移動する勇気はある。この干上がりかけている湖のカバは、みな死にゆく運命にある。移動するよりも、その場にとどまり、殺しあうほうを選んだのだから。最後まで生き残った者はおそらく最も苦しい死に方をするだろう。なぜこんなに暴力を振るうのか。動こうとしないから、現状にとどまろうとするからである。
そのときふと彼は気づいた。生きていくうえで最も大切なことはなにか。それは変化を受け入れることである。
縄張り争いで傷ついたカバが死ぬのを待とうと、群れの長が言った。それを食べようというのである。
この水中相撲をもっとよく見て楽しもうと、群れの面々は湖の縁に腰掛け、各自、気に入ったカバを応援した。彼らは太ったカバが負ければよいと思った。
起こるべきことが起こるべくして起こった。枝が折れ、みないっせいに木から落ちた。それもほとんど相手の鼻先に。ヒョウにしてみれば、もつけのさいわいだった。あとは最も近くにいる者の腹に爪を立て、噛みつき、それからゆっくり食るまでである。彼はすぐに木によじ登った。 <ふう。今回は危機一髪だった> 集団生活の難点はそこにある。仲間の軽率な行動にも耐えなければならない。 危険が過ぎ去り、彼らはほっと胸を撫でおろした。これでゆっくりと眠ることができる。夜は貢ぎ物を受けとった。
カツェンベルグは、ラブラドール半島の白熊のまわりをぐるっと回った。 「真面目に答えているよ、リュクレス。とにかく、顔に毛の生えた連中は借用できないんだ。口髭でも顎鬚でも、髭を生やしているやつは必ずなにか隠している。たとえ顎だけだとしても」
だが、若いメスには自分のしていることがわかっているようだった。怪物のいる洞窟で危うく死にかけたことで、生きる欲が増したらしい
尻が腫れあがった若いメスは、決着のつくのが早すぎると怒ってわめいた。彼女のためにもっと戦うべきだというのである。彼女は期待を裏切られてがっかりしていた。決闘を見たいという彼女の願望は、妊娠したいという欲求より大きいとまではいわなくとも、同じぐらい大きいようだった。 彼女は精子が欲しかっただけでなく、血が流れるのも見たかったのである。
「いつの時代も病気は人類の発展にひと役買ってきた。ペストは衛生観念を、コレラは水を滅過することを我々に教えてくれたし、結核は抗生物質の発見をもたらした。今、人間を恐れさせている新種の病気が将来どんな有益なものをもたらすか、誰にも予想できない」
「どの病気も教訓を含んでいる。癌はコミュニケーションの病だ。健康な細胞が病気の細胞に増殖をやめるよう伝達できなくなって起こる。エイズは愛の病。細胞が自分に有益なものと有害なものを見分けられなくなって起こる。この価値の喪失、コミュニケーションの喪失は、現在の人類の状況と似ていないだろうか。そうしたものに打ち隣つには、さらに変異しなければならない。その後も別の病気が生き残り、それによって人間はさらに進歩する」
いつの日か、人は霊的になる。もっとも、これについてはずっと前から聖書が言っている。モーセの十戒を見てごらん。ユダヤ教は裁かない。なんじ殺すなかれ)というのは未来の話だ。へあなたは殺してはならない、さもないと裁かれる>ということじゃない。いつの日か、あなたは殺さなくなる>、つまり<殺してもしかたがない、その理由がいつの日かあなたにわかる>ということだ。以下同じ。盛んでも、嘘をついてもしかたがない、その理由がいつの日かきみにわかる。いつの日か、ぼくたちは霊的になる
西側社会について言えば、理論的には将来、失業問題はなくなる。十パーセントの人が創造的な職業に就いて掘烈に働く。残りの九十パーセントの人はまったく働かないか、非創造的な遂行者として時々働く。十パーセントの創造的人間は、基本的にはコンセプトを操作する人間だ。彼らは仕事に熱中し、自分の時間をすべて仕事に費やし、大金を稼ぐ。もっとも、稼いだ金を使う暇はほとんどない」
ほかの人?よし、教えてあげよう。九十パーセントの非創造的人間はしょっちゅう職を替え、あまり金を稼がない。臨時雇いで仕事もするが、それにはあまり興味がなく、余暇を最大限楽しむ。この九十パーセントの人々は職業ではなく、むしろ余暇で自分を認識する。これからは非営利の団体活動が発展すると思う。たとえば、臨時雇いの秘書で、時にはベビーシッターをし、機会があれば映画で端役を演ずる女の子が、自分の本業は、環境保護を推進する地域組合のメンバーであることだと考えているというわけさ」
「創造的人間は将来<コンセプトを操作する人間>になると言ったけど、それはどうして?」「ああ。将来はこれといった発明も発見も技術革新もなくなるからさ。あらゆるテクノロジーは一瞬にして世界じゅうに知れわたり、どこの人も同じ車、同じ洗剤、同じコンピューターを使うようになる。そうなると、ほかのものではなくこれを買おうと思わせるものはなにか。商品を紹介するときの小さなヘプラスアルファン、製品の、名称、ブランド・イメージ、宣伝コピー、売り方だ」「でも、それじゃ非創造的な人々がかわいそうだわ」
「そこで、ぼくの大好きなもうひとつのテーマ、教育に行き着く。将来的に、学校は、誰もがもって生まれた創造の才を伸ばせるような場所にならなければならない。そうなれば、コミュニケーションと芸術の市場が拡大する。コミュニケーションと芸術は、つぎの世代の重要なポイントになると思うよ」
「誰もが天賦の才をもっているわけじゃないわ」リュクレスは反論した。
「そんなことはない。みんなもっている。でも、つねに才能に気づいて活かせるとはかぎらない。学校が手を貸すべきなんだ。それぞれの特殊能力を伸ばす目的で、様々な教育を提供して…・…。そうなれば、働く)のではなく、自分の違いや特殊能力を他人に贈り、苦労せずに天賦の才を活かすという話になる。働く>というよりはむしろ、自分の天命を果たすことに<従事する>というわけだ従事する>
いいかい。ぼくたちはなにげなく、日に何度となく数字を使っているけれど、数字はその形自体に ある教えが含まれているんだ。これを考え出したのはインド人だ。曲線は愛を、水平な直線は執着を、交差は選択を表わす。
「1は鉱物の段階だ」
リュクレスによりわかりやすいよう、カツェンベルグは宙に数字を描いた。
「・・・・・・1は一本石の柱のようにじっと立っている。1はなにも感じない。ただそこにいる。曲線も、水平な直線も、交差もない。ということは愛も、執着も、選択もない。物の段階にある人間は<今><ここ>にあり、なにも考えない」カツェンベルグはもう一度、こんどは違う数字を描いた。
「2は植物の段階だ。花の茎のような曲線が一本と根のような直線が一本。2は地面に執着している。
だから花は移動できない。上の部分に曲線がある。つまり2は天が好きだ。花は上の次元、すなわち空を楽しませるために、美しくありたい、調和の取れた色彩と葉脈を備えたいと願っている」つぎに、両手の親指と人差し指を使って3をつくった。
「3は動物の段階だ。上と下の二つの曲線からなり、天と地が好きだ」
「開いた二つの口が上下に重なっているみたいだわ」
「下の口は噛んでいて、上の口はキスしているんだ。3には異なる二つの要素がつねに共存している。
<好き嫌い>だ。水平な直線はない。ということは地にも天にも執着していない。3には執着がない。恐縮と欲望にのみを右される。3は本能のおもむくままに生きる。つまり永遠に感情に捕らわれている」
こんどは二本の人差し指を交差させた。
「4は人間の段階だ。4には、交差を意味する十字がある。交差、つまり選択だ。適切な行動を取れば、人間は動物の段階からつぎの段階へ移行できる。動物の段階の3から5へ。もはや恐怖や欲望に左右されなくなり、本能的な感情にのみ反応するのをやめられるようになる。(好き/嫌い><怖がる/怖がらせる)といったジレンマから逃れることができる」「その上の段階、つまり5に達したら?」
「5は霊的な段階だ。進化した人間だ。5は上に水平な直線がある、つまり天に執着している。それと下に向かう曲線があるから、下にあるもの、つまり地が好きだ。5はまさに2の反対だ。植物は地面から離れられず、霊的な人間は天につなぎとめられている。植動は天が好きで、霊的人間は地が好きだ。これがかの有名なアンドレ・マルローの言葉、<二〇〇一年からの千年は霊的になるかならないかだ)の意味するところさ。つまり人が5になるかならないかだ。感情から解放され、無意識的な反応をコントロールし、霊的になること、これが到達すべき目標だ」